« 音楽的な再生装置 | トップページ | クロスフィード・ネットワークの概要 »

良いバイオリン?

バイオリンの市場価格は、楽器の取引を商売にしている人たちによって、極めて恣意的に決められているようです。ストラディバリの価格は、かつてヒル商会等が流した風評・伝説によって高騰し、その騰勢が今日まで維持されているといわれています。若い有能な演奏家が、財団などの援助に頼ってしかストラディバリを使えないといったことが、当たり前になっています。 こういう現象は、バイオリン族以外の楽器には見られないのではないでしょうか。 この違いは、バイオリンが他の楽器と異なり、非常に長い年月の間使いつづけられるからかもしれません。いずれ、往年の名器と呼ばれているバイオリンが、寿命が尽きて姿を消した後で、どういう状況が現れるか見ものだとおもいます。

こうした特殊な世界はさておいて、独り善がりでなく多くの人が納得できる、良いバイオリンの条件を探していくことは、バイオリンを作る人にとって大切な仕事であると思います。使う人としては、良いバイオリンと悪いバイオリンを、世の中の評判に頼らず自分の考え方に基いて、自分の目と耳で選びわけることを心掛けたいものです。

まず最初に考えたいことは、楽器は演奏の道具だという原点に立ち返って、良いバイオリンの条件は何かということです。それは弾き易く聞きやすいということでしょう。軽く持ちやすく、ポジション取りや運弓が楽で、発音が早く、音程が正確にとれ、調音が楽にでき、ピッチの変化が少なく、音色と音量が平均していて、倍音が出しやすく、且つ音の大きさが自由に幅広く取れること等でしょう。この辺になると、私などは自分の演奏技術の不足が大きく影響してくるので、苦しいところです。音色に関しては好みの問題が大きいようですが、バイオリンらしい音が出れば、その先は好きずきと言うしかないようですね。また使い方(何をどんな条件下で演奏するのか)によっても、楽器の性格は違っていてよい訳ですね。因みに私は今のところ、温か味のある柔らかな音に、繊細な倍音を加味した辺りを狙っています。クリアーでシャープな音は疲れるからです。

次に、寿命や経時経年変化の問題が重要でしょう。気温・湿度・照明・ 紫外線・保管姿勢などの影響は少ないほうが望ましいでしょう。いわゆるフィッティングに関する事項について言えば、多少の変化はフィッティングをやり直せば済むし、もう少し大きな変化も付属品の修正や交換をして直せるでしょう。やはり、修復困難なのはニスや木の劣化ではないでしょうか。ニスは 剥がして塗り直せますが、楽器の性格に関して言えば、修復というよりむしろ作り直しに近い変更になるでしょう。一般に古い楽器が喜ばれる傾向がありますが、自分でしっかりした目をもって選ぶ人にとっては、古いか新しいかは決め手にはならないと思います。むしろ古ければそれだけ残存寿命が短いわけで、同じ性能と品質なら新しいほうに軍配があがるはずです。ここで「新しい」と言うのは出来たて・塗りたての話ではありません。当たり前ですが、シーズニングが済んだ楽器の話です。私は、シーズニングをバイオリン作りの工程の一部と考えています。

余談になりますが、スピーカーは、「エージング」といって、或る時間鳴らしてから使うのがマニアの常識になっていますが、本来なら製造工程で済ましてから出荷すべきでしょうね。

一番最後にくるのが、美的条件や評判・風説・人気・骨董価値・希少価値の類でしょう。しかし、市場ではこれが最も重視されているのは事実のようです。逆にいえば、有名なプロが作れば、演奏の道具としての条件は、黙っていても満足できると言うことなのでしょうか。しかし、バイオリンの出来不出来には運のような部分が付きまとっていますので、この話は俄かには信じられませんね。焼き物のように、気に入らない作品を壊してしまうプロがいれば立派なものですが。尤も、投資や蒐集の目的で選ぶなら全く別の話になりそうですね。

|

« 音楽的な再生装置 | トップページ | クロスフィード・ネットワークの概要 »

音楽」カテゴリの記事

サロン」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 音楽的な再生装置 | トップページ | クロスフィード・ネットワークの概要 »