「漱石が聴いたベートーヴェン」を読んで・その1
瀧井敬子氏の「漱石が聴いたベートーヴェン」(中公新書)を読みました。既に多くの書評が出ていて、蛇足を加えるのもあまり意味がないので、読みながら思ったことや関連して考えた事でも書いてみましょうか。
本の表題というものは誰がどういう立場で付けるのかが気になります。この本には「音楽に魅せられた文豪たち」という副題がついていますが、表題よりは副題の方が中身を表しているでしょうね。漱石云々はちょっとジャーナリスティックに過ぎませんかね。よく帯封に書いてあるキャッチフレーズの類と大差なく、折角の力作が台無しです。まあ内容が内容だけに、こうでもしないと売れなかったのでしょうね。何というか、今日のクラシック音楽を取り巻く情勢を反映していて、物悲しく感じるのは考え過ぎでしょうか。
ヨーロッパの文明を取り入れて国を守ろうと必死に努力した先人達のお陰で、植民地化を免れた今の日本人としては、それらの苦労に感謝こそすれ批判できる立場ではないはずです。そのことは充分理解したうえで、付け刃(やいば)の西欧化が、音楽に限っていえば、如何にも表面的な変化しかもたらさなかったことを感じないわけにはいかないでしょう。特に音楽人口の底辺に当る部分については、小学唱歌の授業でさえ充分な水準に達していなかったと思われます。
私にとっては父が大変な音痴だったことが一つの具体例になっています。因みに父は伊勢の出で中学の途中から東京に出たようです。東京の中学がリベラルなのに吃驚したと言う話を聞いた事があります。昔ラジオで大相撲を聴いていた時代に、君が代の斉唱が始まると七色の声が絡み合って収拾の付かない状態になっていたのを思い出します。ついでに母について書きますと、山田流の名取でしたが、東京の女学校時代の「流浪の民」の合唱をしきりに懐かしんでいました。第二次大戦のあとになると蓄音機でジャズのレコードを掛けたりしていました。音程については大変にうるさい人でした。
今日では音程を外す人は殆んど見かけなくなりましたね。こうなるのに約一世紀半かかったことになります。
ところで、「漱石が・・」を読むと文豪達が魅かれたのは、実は言葉による表現や或いは声のイメージによって補強された音楽が中心であったことが分かります。そこにはバッハのオルガン曲のもつ重厚な和声と様式美によってもたらされる陶酔感のような世界は、ごく一部の例外を除いてあまり見られないようです。
音楽はその初めから言葉と結びついていましたが、必ずしも一体化していたわけではないようです。そうした中で多くの人々に音楽の価値を認めさせる近道の一つに、言葉やその他の表現手段との結びつきによって総合的なパフォーマンスを提示する道があります。オペラ、ミュージカル、バレー、映画などのようにです。音楽に対する感受性が人によって大いに異なるのは当然ですが、こうした方法に訴えれば、そのギャップを埋めて多くの人の共感を得られます。今日クラシック音楽の世界ではオペラの人気が高く、高額の入場券がすぐに売り切れる状況はこうしたことを裏付けています。
明治の文豪達が西洋の音楽に惹かれた訳は何だったのか。これを考える上で何とかしてはっきりさせたい事があります。それは「クラシック音楽」とは何かということです。文字どおりに解釈すればそれは「古典音楽」ですが、ではいわゆる「現代音楽」というのは何なんでしょうか。NHKのFMラジオの番組に日曜夕方6時からの「現代の音楽」というのがあります。因みに次の放送は3月20日です。今度は池辺晋一郎氏の曲のようです。池辺氏はテレビでもお馴染みですし、お嬢さんが娘の知り合いであることも手伝って親しみをもっています。しかし、退屈しないで聴き終えることができるかどうか心配です。この続きは聴いた後で。
■03月20日(日) - 午後 06:00~ 午後 06:50 - FM 現代の音楽
西村 朗
-日本のオーケストラ作品の系譜-
~池辺晋一郎~「クレパ七章」
池辺晋一郎・作曲
(11分05秒)
(バイオリン) 松原 勝也
(ビオラ) 川中子紀子
〃 城戸 喜代
〃 大野かおる
(チェロ) 菊地 知也
(コントラバス)溝入 敬三
(指揮) 池辺晋一郎
<カメラータ 30CM-463>「ピアノ協奏曲 第2番“おまえは私を…”」
池辺晋一郎・作曲
(13分10秒)
(ピアノ) 高橋 アキ
(管弦楽) NHK交響楽団
(指揮) 外山 雄三
<カメラータ 32CM-87>「フルート協奏曲“砂の上に対座して”」
池辺晋一郎・作曲
(19分08秒)
(フルート)小泉 浩
(管弦楽)日本フィルハーモニー交響楽団
(指揮)下野 竜也
<カメラータ 32CM-87>
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